トランプ「多くの陣営」発言は、ネオナチへのラブコール

「多くの陣営における、多くの陣営における」

 12日アメリカ、ヴァージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者の集会が開かれ、これに抗議するグループとの衝突が発生する中、白人至上主義者の男が反対派の列に車で突っ込み、女性1人が死亡、19人が負傷した(参考:Buzzup!)。

 “Unite the Right”(「右翼を結集せよ」)と名付けられたこの集会には、オルト・ライト(オルタナ右翼)の頭目リチャード・“ハイル・トランプ”・スペンサー、白人至上主義結社クー・クラックス・クラン(KKK)の元指導者デヴィッド・デュークといった、(この手の報道を追っている人には不幸にして)お馴染みのトランプ支持の白人至上主義者たちが姿を見せたことが報じられている。一応の集会の名目は、南北戦争の南軍総司令官ロバート・E.リー将軍(ちなみに、シャーロッツビルとは何のゆかりもないようだ)の像を公園から撤去する、という市議会の決定に対する抗議とされているが(Vox)、集会では、反移民の訴えとともに、「血と土」("Blood and soil.")という文字通りナチスの標語も連呼されており(Telegraph)、ネオナチやKKKに代表される人種主義を大っぴらに称える示威行動となっている。そして、デヴィッド・デュークによると、集会の目的は「我々は我々の国を取り戻す」「我々はトランプの約束を実現する」という決意表明なのだそうだ(Vox)。

 そこで問題となるのが、この事態に対するドナルド・トランプ大統領の声明だ。その出だしは、次の通り。

我々は、ヴァージニア州シャーロッツビルで起こっている恐ろしい事態を注視している。我々は多くの陣営における憎悪と偏狭さ、暴力のはなはだしい誇示を最大限強い言葉で非難する。多くの陣営における、である。

We're closely following the terrible events unfolding in Charlottesville, Virginia. We condemn in the strongest possible terms this egregious display of hatred, bigotry and violence on many sides, on many sides.

 日本語に訳すと語順が入れ替わるので的確に伝えにくいが、動画を見れば一目瞭然であるように、彼が強調している部分はわざわざ繰り返した「多くの陣営における」(on many sides)である(呆れることに、CNN日本語版などでは、この部分が省略されて発言が紹介されている)。


Trump comments on violence at white nationalist gathering in Charlottesville | Washington Post

 この声明の中には、「我々の国は多くの面で大変上手くやっている。記録的な雇用が……」といった脈絡のない政権の自画自賛は入るが、白人至上主義を非難したり懸念したりするような言葉は一つもなく、さらに驚くことに(あるいは、驚くに値しないことに)、殺された女性を悼む言葉もない。

 KKK元リーダーのデヴィッド・デュークは、この大統領の声明に対してツイッター上で「白人アメリカ人こそ長年の被害者だ」と不満を表明したが、リチャード・スペンサーは「大統領は今さっき、反ファシスト(antifa)を糾弾したのかな?」「それとも、大統領は平和的・合法的に集まっていたデモ参加者たちを弾圧した警察を糾弾したのかな?」と、ほくそ笑むような反応をツイートしている(参考:The Hill)。「多くの陣営」という強調の中に、自分たちに対立するグループへの非難、を正しく読み取っているのだ。これを「曲解」というには、「多くの陣営」と繰り返した際のトランプのボディ・ランゲージはあまりに露骨だろう。

トランプの父親にはKKK絡みの逮捕歴

 なぜかあまり語られることがないが、ドナルド・トランプ大統領の父フレッド・トランプ(1905-1999)には、クー・クラックス・クラン(KKK)による暴動の現場で逮捕された経歴がある。これは、Boing Boing が2015年に、1927年のニューヨーク・タイムズ記事の中から発見して報じたものだ。記事に記載された住所から、同姓同名人物ではない、本人と確認されている。フレッド・トランプ21歳の時で、ドナルド・トランプが生まれる22年前のことである。

 HuffPost の記事より:

ドナルド・トランプの父親はクー・クラックス・クランの暴動で逮捕されている。

全国メディアの多くは、ドナルド・トランプが大統領選に出馬して以来、この単純な事実の言明を印字することを慎重に避けている。政治家の多くも、このトピックについては奇妙にも沈黙を保っている。

大統領当選者のトランプが、公民権運動の英雄、ジョン・ルイスを攻撃したにもかかわらず、コメンテーターたちは、点と点をつなぐことはなかった。KKKシンパを父親として持っていたことは彼の言動を説明する上で大いに関係がありそうに思えるのだが。

しかし、事実に基づく証拠は極めてゆるぎないものに見える。トランプの父フレッドは、1927年にニューヨーク市でクイーンズでの戦没者追悼記念日のパレードの最中、KKKメンバーが警官と衝突した際に逮捕されている。〔・・・〕新聞は、彼をKKKメンバーとは明言しておらず、彼が他の参加者同様にクランのローブをまとっていたかどうかは言明していない。だが、彼は逮捕され、逮捕された7人全員が同じ弁護団を代理人としたのである。乱闘の2日後になって、フレッド・トランプは留置所から釈放された。いかなる理由による告訴棄却であったのかは、公的記録からは見つけることができない。〔・・・〕

ウェブサイト Boing Boing がこのストーリーを2015年に報じたあと、ドナルド・トランプはそれを否定し、以来、この件を一切公的に論じていない。

ニューヨーク・デイリー・ニュース、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズその他いくつかのニュース機関が2016年にこのつながりをわずかに言及したが、その後はやめてしまった。キャンペーンの間中、メディアの多くは、完全な沈黙を保ち、両党の国政政治家たちも同様であったのである。

 ここで父親の疑惑を持ち出すのは、意地が悪いことだろうか? 親が差別主義者だったら子までその汚名を背負うべき、なんてことはもちろんあってはならないが(あいにくこの人の場合、「汚名」のためにわざわざ親の代にさかのぼる必要もない、という話でもあるが)、問題は、ドナルド・トランプが逮捕の事実すらを否認で片付け、それがなぜかそのまま許されてきてしまったことである。すなわち、父親の過去そのものというより、その父親の過去をめぐって現在のトランプ氏自身が取る態度が問われるべき場面であったのだが、そうした一切が素通りされてしまったわけだ。

 あるいは、より重要なこととして、こうした疑惑をかけられたとき、人は、たとえばこの場合で言えば白人至上主義のような信条に自身が与しないことを積極的に表明することができるわけだが、ドナルド・トランプは大統領就任前にも就任後にもこの手の「チャンス」を、事実の否認や沈黙というかたちで再三棄却してきたのである。「多くの陣営」発言は、こうした振舞いの延長線上に位置している。

【追記】(2017/08/16)
フレッド・トランプのKKK関与疑惑の詳細は、別に記事を書いた。

極右支持者を切り捨てないトランプ

 英語には“give...the benefit of the doubt”という表現がある。疑わしくとも証拠不十分である限り、当人にとって有利な解釈を取ってあげること、すなわち、法的にいうところの「推定無罪」の態度で人を扱うことを意味する。今回の一件で、トランプ大統領は、極右支持者たちとの関わりをめぐって、この「恩恵」(benefit)を受け取れる一線を超えただろう。

 「過激派イスラム・テロリズム」(radical Islamic terrorism)という断定を何ら躊躇わなかった人物が、白人至上主義者が抗議者を無差別に殺傷した、というこれ以上なく明確な事態を前にして、「白人至上主義」や「人種主義」を名指すことをかたくなに拒み、極右活動家はこれを自分たちに対する承認と受け止めている。そして、トランプ大統領には、これを「誤解」と切り捨てるチャンスがあったのだが、彼はここでもはっきりと沈黙を選び、そして選び続けているのである。

大統領、あなたは、あなたを支持するという白人至上主義グループからの支持が欲しいのですか? 彼らを十分に強く非難したのでしょうか? 何かメッセージはありますか?


【関連記事】

【海外記事紹介】「私たちは、トランプが白人至上主義者に迎合していないかのようなふりをするのをやめなければならない」(Vox)

「フレッド・トランプのKKK関与疑惑について」

(2017/08/16最終更新)

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