【動画】「ISISはどのようにビデオゲームとハリウッドの技法をメンバー募集に駆使しているか」(Cracked)

 以下で紹介するのは、アメリカのユーモア・サイトCracked.comの動画「ISISはどのようにビデオゲームとハリウッドの技法をメンバー募集に駆使しているか」("How ISIS Uses Video Games & Hollywood Tricks For Recruiting", 2017/05/05)。Crackedは、いわゆるクリックベイト風のタイトルで釣りつつ(「ハリウッド映画のせいであなたが信じている4つのウソ」みたいな)、しっかりとした啓蒙的な記事を提供することで定評がある。モザイクが足されてはいるが、射殺の映像や死体の画像が含まれているため、年齢制限がかけられており、再生にはYouTubeへのログインが必要。閲覧には要注意。

 ゲーム『Grand Theft Auto V』のModをリリースするなど、「イスラム国」(ISIS)が志願者を募るために映画やゲームの文化を利用していること自体はよく知られている。ただ、そういうものを通じて彼らが何を発信しているのか、あるいは彼らがそもそも何を参照しているのか、といった分析はそれほど多く耳にしない。この動画では、「イスラム国」の機関誌『ダービク』(Dabiq)を通読したことのあるロバート・エヴァンズ(Robert Evans)、今回のために「イスラム国」のプロパガンダ動画を見まくったジョシュ・サージェント(Josh Sergent)、編集長のジャック・オブライエン(Jack O'Brien)の三氏が、ポップ・カルチャーをよく知る視点から語り合っている。

お気に入りの監督はザック・スナイダー?


How ISIS Uses Video Games & Hollywood Tricks For Recruiting (ISIL) - Cracked Goes There

 ハイライトと思われる箇所の一つより抜粋(3:25~):

エヴァンズ:気がついたのは、彼らはこういうことをよくやっているんだ。ロケット・ランチャーを持った男が標的にロケットを撃つ場面で、発射の瞬間をスローダウンしてスピードアップしてスローダウンしてスピードアップして、とやっている。

サージェント:「ランピング」(ramping)と呼ばれる手法だ。スローモーションに入っていってまたスピードアップする。ザック・スナイダー〔訳注:『300』『バットマン vs. スーパーマン』などの監督〕がよくやっている。彼らの動画『Flames of War』の冒頭は、ザック・スナイダーの『ドーン・オブ・ザ・デッド』の冒頭にそっくりだよ。ニュース映像のインターカットで何が起きているかを物語り、ザラついた映像や画質の悪い映像の目まぐるしいカットでよりリアルに見せる。まさにザック・スナイダーが『ドーン・オブ・ザ・デッド』の冒頭でやっているのと同じだ。

オブライエン:彼らは「悪者」でいることに熱心みたいだね。今の例で言うと、要するに彼らはゾンビにあたるわけでしょ。「おい、俺たちが悪者だぜ」と。

サージェント:誰にも止められない、ってわけだね。

 また、別のところでは、戦死したカナダ出身の兵士を主人公とする動画『Abu Muslim』について、それが「英雄の旅」の「12ステップ」として知られるハリウッドの脚本術に則って構成されていることを指摘したシカゴ大学研究チームの報告が言及されている。この「12ステップ」とは、クリストファー・ボグラー(Christopher Vogler)がディズニーで仕事をしていた際に神話学者ジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell)の「英雄の旅」論を下敷きに組み立てたもので、そのスタジオ・メモを発展させて書かれたテキストブックが、日本語訳も出ている『神話の法則』(The Writer's Journey: Mythic Structure for Writers, 1992)である。

イデオロギーを代行する物語

 エヴァンズ氏は2015年の記事で、「イスラム国」がその機関誌上でアメリカ製の兵器を誇示していることを指摘していた。その兵器群には、敗走したイラク軍から押収されたものもあれば、シリア内戦の反政府派組織に支援目的で送られた武器が流れたものもあると目されるが、ただ、アメリカを供給源としているのは、そうした物理的な兵器に限られないわけだ。相手の力を巧みに利用している、という意味で、今回の動画でエヴァンズ氏はこれを「プロパガンダ柔術」と評している。批評家の大塚英志氏がちょうど2001年の9.11テロとその後の「対テロ戦争」に絡んで繰り返し指摘していたように、動員の技術としての物語や映像技法は、どんなイデオロギーにでもあっさり適合してしまうわけである(『物語消滅論:キャラクター化する「私」、イデオロギー化する「物語」』角川書店、2004年、など)。

 外にいる私たちは、「イスラム国」のような組織に志願する人々は何か特殊なイデオロギーを信じているに違いない、「イスラム国」のような組織はプロパガンダを通じて何か狂信的なイデオロギーを教え込もうとしているに違いない、と思いがちである。自分たちはイデオロギー的に無色で、「彼ら」は謎めいた「イデオロギー」を持っている、という何だか手前勝手な世界観なのだが、当の「彼ら」は、容れ物としての物語、構造としての物語こそが動員の鍵を握ると熟知し、ハリウッド映画にそのテクニックを求めているわけである。

 そこで彼らが引用していると思しき映像作家が、アメリカの保守主義者のあいだで教祖的というか〈資本主義の守護神〉的な信奉を集めるアイン・ランドの小説の映画化を熱望するザック・スナイダー(参考:Salon)、というのも、ずいぶんまた出来過ぎた構図である。

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