【海外記事紹介】「反戦左翼の失敗」(Noah Berlatsky)

 紹介するのは、以前別の記事を紹介したノア・バーラツキー(Noah Berlatsky)によるエッセイ「反戦左翼の失敗」("The Anti-War Left’s Failure", 2017/04/07)。4月6日の米トランプ政権によるシリアに対するミサイル攻撃に触れて書かれたものである。

〔※最初の投稿の記述では、出来事とそれぞれの記事についての時系列が混乱していたので、時系列について説明を補うかたちで加筆し、日本語ニュース記事のリンクを増やして再投稿した。〕

グレン・グリーンウォルドのヘマが示唆するもの

 以下、訳注的捕捉を交えて記事より抜粋する。

再び、アメリカ合州国が中東で交戦状態にある。
繰り返しは感覚を麻痺させるが、同時に教訓的でもある。中東における合州国のデフォルトの外交政策が戦争であることは明らかだ。そしてまた、この2、30年に渡って反戦運動が事態を変えることに失敗してきたことも明らかだ。
多くの反戦活動家・著述家は、ヒラリー・クリントンをひどく嫌っていた。2003年に上院でイラク戦争に賛成票を投じたことと、国務長官として血まみれのリビア政策を担ったことがその理由だ。対照的に、政治家としての役職についたことのなかったドナルド・トランプは、帝国的な活動に関与したこともなかった。そのため、反戦論者たちは、ひょっとすると彼のほうがマシかもしれない、と自分たち自身に信じ込ませていた。グレン・グリーンウォルドは、トランプの一貫性のない外交に関する言明を結び合わせて、トランプは「非介入主義的な」マインド・セットの持ち主だ、と自身に信じ込ませた。グリーンウォルドは、あわれにも、トランプのシリア爆撃の決断は一つのどんでん返しであったと主張している。本当のところは単にグリーンウォルドがヘマをさらしただけ(just got rolled)だというのに。

 グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald)は、エドワード・スノーデンの内部告発に協力したジャーナリスト・弁護士。訳書に『暴露 スノーデンが私に託したファイル』(新潮社、2014年)がある。彼が、ドキュメンタリー作家ローラ・ポイトラスから知らせを受け、スノーデンの待つ香港のホテルへと赴き、連日のインタビューをもとに英ガーディアン紙に記事を書き送っていった過程は、ポイトラスのドキュメンタリー映画『シチズンフォー』(2014)で見ることができる。グリーンウォルドは、2014年からポイトラスらとともに、The Interceptというニュース・サイトを主催している。
 ここで言及されているのも、今回のミサイル攻撃前の3月にThe Interceptに載せられた「トランプの対テロ戦争は、瞬く間に、彼の約束した通りの野蛮で残虐なものとなった」("Trump’s War on Terror Has Quickly Become as Barbaric and Savage as He Promised", 2017/03/27)と題された記事。シリア及びイラク領内の「イスラム国」支配地域への米軍による空爆で民間人に多数の死者が出たことを背景として書かれたものだ(CNN日本語版の3月24日および3月29日の記事を参照)。

グリーンウォルドの判断の誤りは、示唆的である。反戦派は、一人の候補者を邪悪な赤ん坊殺しの帝国主義者とラベリングしたり、対立候補を独力でアメリカによる暴力をきっぱりと終わらせるであろう英雄として喧伝したりするかたちで選挙に取り組みがちだ。〔・・・〕反戦派は、バーニー・サンダースを私たちを帝国主義から救ってくれる救世主として喧伝していた。外交は彼のキャンペーンにとって中心的なテーマではなく、彼が外交について気にかけているとか精通しているとかいったことを示すものはほとんどなかったにもかかわらず、である。そしてサンダースが敗退したとき、グリーンウォルドのような人々は、気乗りのしないかっこうで、トランプが反戦的な候補のようなもの、あるいは少なくとも外交の優先事項を多少なりともマシなほうに変えるかもしれない人物なのだ、と自分たちを信じ込ませようとしたのである。
問題は、反戦のレトリックと議論が個人をめぐって集中しがちなことだ。私たちはオバマの邪悪なドローン戦争について語り、ヒラリーがいかにタカ派かを論じ、トランプやサンダースが非介入主義者かどうかを論じる。
だが、実際に暴力を減らすという観点からすれば、人物批評への執着は障害物となる。繰り返すが、私たちは中東においてほとんど絶えず戦争状態にあるのだ。今日の介入の繰り返しは、ジョージ・H・W・ブッシュによって始められたものと見られ、〔ビル・〕クリントン、W〔子ブッシュ〕、オバマ、そして現在のトランプに至るまで歯止めのないまま継続している。〔民主・共和〕両党からの5人の大統領、ということだ。それも、従来的なネットワークとの結びつきの薄い一人を含んでいる。だが、戦争支持の共通了解は変わることがなかった。
軍産複合体は戦争を好む。それは、どんな人物がそこにはめ込まれようとも関係なく、戦争を好み続けるだろう。
では、何が代替案となるか? 僕にそれが分かっていれば、と思う。チャック・シューマー〔民主党上院議員〕やヒラリー・クリントンのような人々がトランプによる爆撃の支持に回っているのを見ると、落胆させられる。単純に言って、二大政党のどちらにおいても、戦争支持の共通了解に立ち向かえるような政治的な空間が存在していないのだ。ありえそうもない奇跡的な救世主を人々が探し求めるのも不思議ではない。
常態化する戦争と閉塞する政治

 若干捕捉が必要そうだ。

 念のため、グリーンウォルドがトランプを支持していたとかいうわけではない。また、グリーンウォルドがトランプ政権のシリアにおける武力行使を「どんでん返し」(reversal)として論じている、というのは、グリーンウォルド本人が仰天してみせている、といった話ではなく、「驚く人もいるようだが・・・」と物知り顔で解説している、という文脈においてだ。“reversal”といった言葉を、グリーンウォルド自身が使っているわけではない。
 《「武力行使はトランプのこれまでの非介入主義的な言動と矛盾している」と考える人々は、体制転覆や人道主義を目的とする軍事介入に消極的な非介入主義(non-interventionism)と、武力行使に否定的な反戦主義(pacifism)とを混同している》というのが、グリーンウォルドの3月時点の論旨。それに対して、この記事では、4月6日に米トランプ政権がシリア政府軍の化学兵器使用に対する人道主義的介入措置としてシリアのアサド政権に対する直接攻撃に踏み切ったことを背景として(CNN日本語2017年4月7日)、《いや、「トランプ=非介入主義的」とかそんな見立てを練り上げていた時点で、あなたこそ相当こんがらがっていたんじゃないですか?》とツッコミが入れられているかっこうだ。

 ただ、グリーンウォルド批判はここでの主題ではない。エッセイで述べられているように、「人物」にこだわるのは賢明でも得策でもないだろう。

 ここでのグリーンウォルドへの違和感は、「トランプは非介入主義じゃなかったのか?」といった反応を「無知」と切り捨てながら、彼自身が座標軸を増やしただけの人物に焦点をあてた議論(「トランプは非介入主義的ではあったが、決して反戦主義的ではなかった」)を相変わらず展開している、そのことに向けられている。すなわち、ひねりを加えたところで発想がそのままなのだ。だいたい、トランプを「平和主義者」「反戦主義者」(pacifist)と誤解していた人などいるはずもない。トランプは国防予算の大幅増額を打ち出しているし(CNN日本語2017年2月24日)、「ISISを倒して、石油を奪う」と公約していた2016年1月の彼の選挙キャンペーン最初のTVCMにはご丁寧にピンポイント爆撃の映像まで盛り込まれていた(下動画を参照)。


Donald Trump Releases First TV Ad | Wall Street Journal

 どうしてこんな奇妙な議論に迷い込んでしまうのか。それは「人物」に焦点を当てたその語り口にそもそも問題があるのではないか、というわけだ。「ヒラリー=介入主義的なタカ派」「トランプ=非介入主義的なタカ派」とばかりに面倒くさい分類体系を頭のなかで繰り広げて一人納得するグリーンウォルドの事例は、さすがに戯画的な域に達しているが、実際のところ、政治をめぐる会話において「誰が」という発想から距離を置くことは必ずしも容易ではない。恒常化する戦争、という閉塞感の漂う政治状況においてはなおさら、と言える。

 バーラツキー自身、かつてオバマ政権時代にドローン攻撃に反発して、2012年の大統領選でいわゆる第三の候補に投票した過去を認めている。だが、今の彼は「もし共和党のロムニーが勝っていたら確実にもっと多くの戦争を重ねていただろう」と振り返る。「人物」に焦点を当てた解釈が、閉塞する政治の結果かつ原因となってしまっているのである。

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