【ゲームレビュー】『Asemblance』:記憶という生き物

作品名:Asemblance
開発元:Nilo Studios
販売元:Nilo Studios
発売年:2016
PC(Steam

「私とあなたでは、違う風に記憶しているみたいね・・・」

"I think you and I remember things differently..."

追体験される混乱と没頭

 非常灯の赤い光とアラーム音とともに実験施設らしき空間の一区画に立っている自分に気がつく。機械的な音声が「緊急事態」を知らせ、ただちに目の前の端末を起動し、指示に従うように、とうながす。起動された端末のモニターには「今日のご機嫌はいかがですか?」と質問が表示され、それに四択で回答すると、周囲に通常の照明が灯り、緊急事態など起こっておらず、これは緊張した状況下で反応する能力を確認するためのテストだった、と告げられる。

 『Asemblance』は、冒頭から一貫して頭の混乱を誘う一人称視点の3Dアドベンチャー・ゲームだ。主人公は何者なのか、どこにいるのか(端末のモニターには“Asemblance Labs”という社名が表示される)、この研究施設らしき場所で一人で何をしているのか、目的・動機は何なのか。目の前で展開されている事態の明確な輪郭を得られないまま、ゲームは進行していく。ストーリーはさしあたりゲームの仕掛けそのものによって示唆されていくのである。主人公が向き合うその端末は、記憶を立体映像(ホログラム)として再現する大がかりな実験装置とつながれており、機械的な声の主はその操作を助けるためのAIであるらしい(が、そうとは断定されない)。そのAI(らしき声)は「まだもう一度試してみるつもりかい?」と、主人公が既にこの実験装置のなかで相当な時間を費やしていることを示唆する。そして、プレイヤーは、ホログラム化された記憶の空間のなかへ繰り返し潜り込む、という主人公の没頭しているこの作業をいわば追体験していくなかで、謎めいた実験装置とそこに保存された記憶とにまつわる断片的な物語に触れていくことになるのである。

凝視することで姿を変えていく空間

 ホログラム化された記憶は、それぞれ日付の与えられた空間として主人公≒プレイヤーに提示される。カットシーンのような直線的に流れる〈回想〉が見られるわけではなく、記憶はあくまで空間としてホログラム化され、そのなかを歩き回ることを通じて体験されていく。机の引き出しやごく単純なスイッチといったものを別とすると、プレイヤーがこのホログラムの空間に対して干渉できる方法は極めて限られており、ゲームプレイ上、一番大きな役割を果たすのは〈眺める〉という行為だ。すなわち、ホログラムのなかで特定のオブジェクトを凝視すると、場面が微妙に姿を変えたり、別の場面へと飛ばされたりするのである。分かりやすい例を挙げると、時計を眺めると、同じ場所のままだが、違う時間に場面が転換(シフト)する、といった具合だ。シフトを引き起こしながら、場面に散りばめられた手がかりを繰り返し確認していく、というのがゲームプレイの中心的な作業となる。強いてジャンル分けするなら、若干のパズル要素とホラー要素のあるウォーキング・シミュレーター、といったところだろう。

 30分ほどのプレイで最初の一応のエンディングにたどり着くが、本当のゲームが始まるのはそこからだ。私の知る限り、エンディングは6つある(実績としてカウントされているのは5つで、最も結論らしい結論が得られる最後の1つは「実績100%」に騙されると見損ねる、隠されたエンディングとなっている)。そのうち2つは、よほどの根気と強運がなければ、自力でたどりつくことはほとんどなさそうなシフトを引き起こすことが条件となっている代物だ(私自身、オンラインで方法を読んで見ることができた)。ゲーム内で解決されることが意図された謎解きというより、ゲームの謎についてプレイヤーたちが発見を報告し合い協力して探る、といったメタ・ゲーム的な謎解きを予め織り込んだ作品といえるだろう。

 発売当初数日間はさておき、簡単に「エンディング動画」にたどり着けてしまうようになる今日、それがどこまで成功しているか、あるいは成功し得るものなのか、判断の難しいところだ。ただ同時に、『Asemblance』は、すべてのエンディングを見たプレイヤーたちがオンライン上で、そもそも主人公が何者で、一体どういうストーリーであったのかを仮説を立てて議論している、そんなゲームでもある。そういう意図的な曖昧さに好感を持てるかどうかで印象はだいぶ変わるだろう。

結論

 文字通りきっちりと空間的に限定された場面をひたすら行き来する、小ぢんまりとした作りのゲームであるものの、シンプルなゲームプレイを通じて複雑な奥行きを創り出すことに成功している。1~2時間ほどで堪能できる作品世界には、短めのSF小説を読んだり、あるいはSFテレビ・シリーズの一話を見たりするのと近い感覚も見出せるが、同時に、ゲームならではのインタラクティヴ性が、のぞき込めばのぞき込むほど姿を変え続ける〈記憶〉という生き物を巧みに表現している。あるいは自力ですべてのエンディングを見ようとするプレイヤーは、ゲームのなかの主人公をなぞるように、答えを求めて外界と接触を断って仮想空間に何時間と潜り続けることになるだろう。それはそれで、ゲームそのものがゲームのメタファーとなっていき、(主観的に? 客観的に?)おもしろいのかもしれない。

 メタスコア的には生温い評価を受けた本作だが、高い評価を与える何人かの評者は小島秀夫の『P.T.』(2014)を引き合いに出している(KotakuThe Washington Post)。同じ2016年には『Event[0]』という、やはり入力端末とAIが重要な役割を演じたインディー・ゲームがあり(レビューを書いた)、両者が「視点(パースペクティヴ)の複数性」という主題において共通しているのは興味深い。あるいは、こちらに語りかけてくるイマイチ信用の置けない声と姿を変え続ける空間という意味では、少し『The Stanley Parable』(2015)を思わせもする。あの作品ほどぶっ飛んではいないが、「ひょっとしてまだ何か隠されているのでは?」とますます強迫観念的になっていくゲームプレイのサイクルには一定の類似を見出せるだろう。

 「類似」といえば、本作のタイトルは“Asemblance”であって、“Assemblance”ではない。

 監督のナイルズ・サンキー(Niles Sankey)は2015年までBungieで『Halo』シリーズや『Destiny』の開発に携わっていた人物で、他のメンバーは『Dead Space』シリーズなどで知られるスタジオVisceral Games(旧EA Redwood Shores)に所属していたそうだ(Kotaku)。

 対応言語は現在のところ英語のみで、セリフの字幕表示がないので、英語の聴き取りが必須。また、ストーリーを理解・・・というよりは推測するために、ホログラム空間上に散乱している、プリントされたEメールやそれに付された手書きメモをはじめとするそれなりの分量の文書に目を通す必要がある。


Asemblance - Release Trailer | PS4

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