「トランプは本当に大統領になりたかったのか?」問題

Photo: The Concourse

「ドナルド・トランプは一度として大統領になろうとなんて思っていなかった」

 この説の早くからの主唱者は、映画監督マイケル・ムーアのようだが、彼のハッタリがかった論調を真に受けなくとも、トランプ氏が彼を待ち受けるアメリカ大統領としての日々の職務と重責とを楽しみにしている姿、というのは、正直イメージしづらい。

 ムーアよりもう少しユーモアの利いたプチ陰謀論として、The Concourseの記事「ドナルド・トランプだって、あなたと同じくらいこんなことは嫌なのだ」(Ashley Feinberg, "Donald Trump Doesn't Like This Any More Than You Do", The Concourse, 2016/11/11)は、オバマ大統領との会談のためにホワイトハウスを訪れたトランプ氏の暗い表情の数々をとらえて「まるで死にたそうな顔をしている」と評し、次のように述べている(英語記事だが、ほとんどトランプ氏の顔写真なので、実際にリンク先をチェックしてみて欲しい)。

 ドナルド・トランプは集会に行くのが好きだ。彼は、人々が彼の敵の投獄や死を求めながら狂喜して彼の名前を叫んでいるのを聞くのが好きだ。彼はテレビに出るのが好きだ。彼は自分がテレビに出た後、高視聴率について聞くのが好きだ。彼は女性の股間を無理やり掴んで「ビッチみたいに」口説くのが好きだ。
 しかし、ドナルド・トランプが好きでないのは、約束を守ること、5分以上静かに座っていること、退屈であろうとなかろうとその手の一切の仕事をすることなのだ。それが、長年彼の事業のあまりにも多くが、目を見張るような、猛烈な失敗の連続であったことの理由かもしれない。

 なお、同記事には

「これは・・・ほら、あれだ、屁こいたつもりがウンコを漏らしたっぽい、ってときになる顔だ」
とのコメントが寄せられている。

 トランプ氏の勝利が彼自身が「民主主義にとっての災難」と呼んだ制度の賜物であることについては先に触れたが、この勝利はトランプ氏本人にとってもとんだ災難なのかもしれない。そんな妄想を誘う。

 ただ、この疑惑をわりとまじめに心配したほうがいいのは、トランプ氏本人はともかく、彼の周りにいる連中がはしゃいでいるように見えるからだ。同じ記者による別記事は、陰謀論サイト「保守系オンラインニュースサイト」の会長スティーヴ・バノンの首席戦略官登用に、ネオナチ・サイトの住人たちが歓喜の声を上げている様子を伝えている。キリスト教原理主義者からネット右翼からウォール街の面々まで、すでに同床異夢の様相を呈している政権に、トランプ氏個人を超えて、どんな「夢」が持ち込まれるのか、空恐ろしいものがある。