【ゲームレビュー】『Event[0]』:共感とパラノイアのあいだ

作品名:Event[0]
開発元:Ocelot Society
パブリッシャー:Ocelot Society
リリース:2016年
PC(Steamにて購入

 ゲームというメディアの可能性を感じさせる傑作である。プレイヤーは、キーボードでAIと会話をして、無人となった宇宙船を探索しながら、共感とパラノイアのあいだをさまようこととなる。

 『Event[0]』は、3D一人称視点での探索とコマンド入力式テキスト・アドベンチャーとを組み合わせた、一風変わったアドベンチャー・ゲーム。遭難し、無人の宇宙船に漂着した宇宙飛行士が、地球へと還るために、船に搭載されたAI「Kaizen-85」の協力を取り付けようとするなかで、「Kaizen」とクルーたちとのあいだで起きた出来事について知ることとなる、というのが、おおまかなあらすじ。ゲーム内のターミナルでAIと会話したり、ログを読んだりしながら、無人の船を探索していく、といった流れとなる。
 船内のディテールはもちろん、耳にこびりついて離れないテーマ曲から、ゆるキャラ版HAL(『2001年宇宙の旅』)とでも言えそうな「Kaizen」のアイコンまで、雰囲気の作り込みが秀逸で、『サイレント・ランニング』『月に囚われた男』といった秀作SF映画を思わせる。なお、断片的にのみ語られる舞台設定は、1980年代に大規模な宇宙計画が進行された世界とされており、「過去の時代の夢見た未来」というべきレトロSFな世界観が採用されている。

 キーワード探しに陥るのでは、と心配したが、ゲームプレイの核となるAIとの会話は、見事な出来。船に他に誰もいないのか、と訊くつもりで、“Are you alone?”(「ひとりか?」)と打ち込んだら、“Who's not?”(「ひとりじゃない人なんているの?」)と返ってきて、思わずニヤリとさせられたが、二周目で同じ質問をしたところ、“I might not be alone now. That depends on you.”(「今はひとりじゃないかもしれない。それは君次第だ」)と返答があり、こちらにもなかなかドキッとさせられた。
 地球から遠く離れた無人の宇宙船で、人工知能とキーボードで会話している、そんな没入感を味わえるゲーム、というのは、たいしたもの。もちろん、オウム返しのような答えを繰り返したり、入力した質問と関係のない話題で返答してきたり、といった瞬間もしばしばなのだが、そういった限界も、信用していいのかどうか分からないAI、という雰囲気に貢献していて、あまり苦に感じられなかった。キーボードはほぼタイピング専用で、マウスで移動する(左右ボタンが前進/後進)、という操作方法も、私はすぐに慣れた(操作のカスタマイズは可能、とのこと)。

 私は二周クリアしたが、一週目ではドアを開ける開けないで押し問答になった箇所を二周目ではあっさりと通してくれたり、それまでのプレイヤーとの関係次第で「Kaizen」の反応に違いが見られ、おもしろい。私の場合、一周目では完全にパラノイアの迷宮に突入したまま結末へと向かったが、二周目では物語の核にある繊細なドラマをじっくりとかみしめることができた。スリラー要素とドラマ要素が巧みに絡み合っているが、どちらに強調を感じるかはプレイの仕方次第と言えそう。
 断片的な情報から増殖するパラノイアも楽しみの一つではあるが、なかなかはっきりと語られない真相にばかり気を取られず、「Kaizen」が何を怖れているのか、何を求めているのか、といった感情面に深く注意と共感を向けることが、物語を存分に楽しむ鍵となるだろう。情報を引き出すことではなく、関係を築くことが、このゲームにおける会話の焦点なのだ。

 対応言語は英語のみ。所要時間は、3-4時間といったところ。ただ、私がそうだったが(初回クリアに4時間以上かかってしまった)、3D空間の探索とテキスト入力の両方がゲームプレイの柱となっているため、いったん行き詰まると、自分がどちらで何を見落としているのか分かりにくく、不要な堂々巡りに陥りやすい印象。私の場合、タイプミスかなにかでたまたまエレベーターが呼び出せなかったのを故障しているのだと勝手に思い込んでしまい、別の道を探そうとしてだいぶ時間を浪費してしまった(解決を知ると、このように、つまらない見落としだったりするのだが)。
 先に述べたように、二周目をプレイすると各場面でのやりとりもだいぶ印象が変わるので、気に入ったら二周することをぜひおすすめしたいが、二周目以降は、ログをじっくり読み返しても、2時間もかからないだろう。「値段のわりに短い」との批判を見かけるが(現時点の定価は1980円)、私にとっては、新鮮な気分のまま初回を終えられて、もう一周してみたくなる、という意味で、ちょうどいいプレイ時間だった。

 ただ、長さに関連する不満点として、マルチ・エンディングであるにもかかわらず、セーブ機能が、タイミングの分かりにくいオート・セーブのみであることが挙げられる。私は二周プレイしたものの、他のエンディングに向かうタイミングを逃して、二度とも同じエンディングしか見ることができなかった(結局、他のエンディングはYouTube動画でチェックした)。Steamの実績を見ると、どこかでログも見落としていたようなのだが、引き返せない地点でセーブが上書きされてしまって、クリア後のセーブ・データに使い道がないのである。セーブ&ロードの濫用によって「Kaizen」とのコミュニケーションの一回性を台無しにさせないため、とは理解できるが、もう一工夫欲しかった。

 なお余談として、オープニングで主人公の来歴についていくつかの選択肢を選ばされるのだが、そのなかの一つで、あなたを記述するのに最適な代名詞(pronoun)は、she/he/theyのどれか、という選択がある。私はあいにく購入だけして未プレイなのだが、『Read Only Memories』(2015)でも、似たような代名詞のカスタマイズ・オプションがあったと聞く(同作のプロデューサーは、Gaymer XというLGBTQフレンドリーなコンヴェンションの主催者としても知られる)。あるいは、『Undertale』(2015)で、主人公に対してジェンダー・ニュートラルな代名詞として“they/them”が用いられていたことは記憶に新しい。代名詞というのは日本語話者には意識しづらい部分だが、「感情移入=共感」(empathy)をテーマとしたこの作品において、姿の映らない無言主人公にあらゆるプレイヤーが自らを投影しやすいように、との気の利いた工夫であろう。


Event[0] - Announcement Trailer 2016

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